「じゃあ夕方でもいいから今日中に行きなさいよ。晴香ちゃんに聞いたら、今日は悠希くん家に一人でいるみたいだから早めに行ってあげなさいよ」


「はーい」


「じゃあお母さん、仕事行ってくるわね」


「いってらっしゃーい」


 仕事へ出かけたお母さんを確認すると、私は「はー」と全身の力を全て抜いたように大きく溜息をつき、手渡されたお見舞いの品を途方に暮れながら見つめた。


「どうすんのこれ……」


 午前中いっぱい悩んで、いつの間にか眠ってしまった私が目を覚ましたのは時計の針が午後三時を回る少し前の頃だった。


「え! もうこんな時間! まだ心の準備してないのに!」


 言いつつ洋菓子の袋を手に靴を履く。


 勢いよく飛び出した私を待っていたのは痛いほどに照りつける太陽の光。


「あっつー。でも雷鳴りそう。やだなあ」


 遠くに見える入道雲を気にしながら私は足早に目的地を目指した。

 滲む汗を拭っていた私の目によく知る人物が飛び込んできた。


「あ、希望ちゃん」


「琥珀ちゃんじゃない! どこ行くの?」


 真っ白なワンピースを着た今や恋敵、希望ちゃんは私の手に持つ箱を気にしながら首を傾げた。

「あ、えっと……お母さんに頼まれて悠希のお見舞いに」


「ふーん」


 まるで値踏みをされている気分だった。

 希望ちゃんは私の姿を頭の先から足の先までジロリと見渡すと、満足したように満面の笑みを見せた。


「私も丁度、今悠希の家に行った帰りなの。もうすっかりいいみたいだけど、無理する奴だから、どうだか」


「はあ」と大袈裟に溜息をつく希望ちゃんに私は苦笑いを浮かべることしかできない。


「じゃあ、まあ、気をつけてね、琥珀ちゃん」


「うん。ありがとう希望ちゃん。また学校で」


 思わぬ遭遇に驚きながらも、悠希の家にたどり着いた。

 三度深く息を吸って、私はようやくインターフォンを押した。