朝、支度を終えると同時にお母さんから手渡されたのは、近所の洋菓子店の紙袋だった。


「お母さん、なにこれ」


 質問しながら中を覗くと、大きめの白い箱が見えた。

 お母さんは「は?」と呆れた様子で私を見る。


「琥珀、あんた悠希くんが怪我したの知ってるでしょ? お見舞いも行かずに何してるの」


「あ、えっと、それは……」


 お母さんの追及を逃れるかのように、私は視線を逸らした。


「今から悠希くんの家に行ってこのお見舞い置いてきなさい」


「えっと……夕方までは用事があって……」

 幼なじみへの恋心を肯定した日から、私は自分の心の変化を感じていた。

 やっかいだったのは、彼を前に慌ててしまうことだ。

 同じ空間にいるだけで心拍が上昇し、うまく言葉を紡げない。

 避けられている、と悠希も自覚し始めている頃だろう。

 だからこそ、今この状況で彼の家を一人で訪問するということは私にとって大問題なのだ。


 渋る私にお母さんは再び呆れながら言った。