「琥珀さん! どうしたんですか!」
「うっ……うっ」
「とりあえず、涼しい場所に移動しましょう? 人目もありますし、何より今日の暑さで熱中症になっちゃいますよ」
橘くんは自分の被っていた黒い帽子を私の頭に深く被せると、彼は私の手を引き歩き出した。
木陰にやってきた私たちは近くのベンチに腰を下ろし、水分補給した。
「落ち着きましたか? どこか、具合悪くないですか?」
何も答えない私に橘くんは困惑しながらも、急かさず私が口を開くのを待ってくれた。
「……橘くん」
「はい?」
私がようやく口を開いた頃、体育館から試合終了を告げる笛の音が聞こえてきた。
「私ね、保健室まで悠希を追いかけたの。でも、あいつの隣には希望ちゃんがいた。私……怖気づいて逃げてきたんだ。あいつが好きだって気持ちが怖くなった。本当は誰にも渡したくないのに、でも、もう……」
私はそれ以上言えず、口を閉じてしまった。