橘くんを置き去りにし、体育館の二階ギャラリーから外へと続く階段を駆け下りる琥珀。

 確信はなかったが、私の足は保健室へと向かっていた。

 息を切らしながらようやく高等部の保健室の前にたどり着いた。

 扉を開けようと手を伸ばした瞬間、室内から声が聞こえ、私はその場で静止した。


「もー、本当に心配したんだからね? 良かったよ。ただの捻挫で」


「悪いな。心配かけて」


「でも、しばらく部活に参加できなくなっちゃったね……」


「なにも一生バスケ出来なくなるわけじゃねーだろ? なんでお前が泣くんだよ」


「だって、悠希がどれだけバスケ好きか私、知ってるから……」


「……ありがとうな、希望」


 私の入り込める場所は、どこにもなかった。

 希望ちゃんも同じように悠希の試合をどこかで見ていたのだろう。

 同じように、ケガをした悠希を心配して、この場所に駆け付けたのだろう。

 おかしいところなど、この場面において何もないはずなのに、私の心は声にならない悲鳴をあげていた。