「あ、琥珀さん。幼なじみさん、交代みたいですね」
体育館の二階ギャラリーにて、柵に手をかけながら、橘くんは選手交代で出てきた悠希を指差した。
「あ、悠希がこっち見てる。あはは……さすがに橘くんと一緒に来たのはまずかったかな」
夏の県大会をかけた高校バスケットボール予選決勝。
事前に必ず応援に行くと約束していたのだから、彼が私の存在に驚いた可能性は低い。
原因は幼なじみの隣にいる見知らぬ男に、だろう。
「やっぱり僕、お邪魔でしたかね。二宮さん、すごく睨んでませんか?」
ベンチからこちらを見つめる様はホラーに近い。
「あーあれは、ある日突然妹に男の影が! って感じの兄の心境、もしくは弟かな」
「兄? 弟?」
「周りの皆が私たちのことをそういう目で見たいのは分かるんだけどさ。私が悠希のことを好きだって自覚しても、あいつにとっての私は生まれた時から一緒の兄弟って認識しかないんだよ」