部屋を追い出された琥珀は、人気のない廊下を歩いていた。

 男子部屋の扉をノックすると、すぐに「はーい」と廈織くんの声が聞こえた。

 私の姿を見た廈織くんは驚いた表情でこちらを見つめている。


「え、琥珀ちゃん?」


「は? 琥珀?」


 廈織くんの上ずった声に、悠希が顔を出した。


「と、とりあえず、入っていい?」


 ここで見つかってしまったら終わりだ。


「え? あ、ああ、うん。いいよ」


 中に入れてもらうと、部屋の隅で携帯電話を操作する神谷くんの姿が目に入った。

 私の存在に一瞬驚いた様子だったが、すぐに興味をなくしたようで、再び携帯電話の画面に視線を落とす。


 廈織くんに経緯を説明すると、思い出したように声をあげた。


「ごめん」と両手を合わせて謝る廈織くんの姿に、私はため息をつくばかりだった。


「もういいから、廈織くんは早く七海のところに行ってあげてよ。あの子待ってるから」


「うん、ありがとう。琥珀ちゃん」


 慌てて部屋を出て行った廈織くん。後に残された私たちは、呆然としていた。

 時刻は二十二時。


「……状況が全く分からねーんだけど」


「あれ? 悠希、廈織くんから何も聞いてないの?」


 悠希は納得のいかない表情で眉を寄せていた。本当に何も知らないらしい。


「七海と廈織くん、付き合ってるんだよ」