「……もう、待ってあげないからね!」
数か月前のように、また言葉を濁して逃げられてはたまらない。
そう思って発した言葉だった。
私の言葉に悠ちゃんは真剣な表情を崩し、喉を「くくく」と鳴らして笑った。
「な、なによぉ……」
「もう待たせないよ」
そう言って、意地悪な顔で悠ちゃんが笑う時は、決まって何かを企んでいる時。
今回もやっぱりそうだったようで、悠ちゃんは静かに私との距離を縮める。
あ、この感じ……知ってる。
両想いになった男女がいい雰囲気になって、少女漫画の最後のコマなんかでよく見るやつ――――そこで、私と悠ちゃんの唇が重なった。
こんな時でも私は悠ちゃんに敵わない。
きっと私たちは、ずっとそういう関係なんだろうね。
喜怒哀楽を生まれた瞬間から一緒に体感し、育ってきた私たちだからこそ、今の関係がこんなに心地いいのだろう。
互いの足りない部分を補いながら、空気のような存在感でいつも隣にいる。
今までも――――これからも、ずっと。
名残惜しくも悠ちゃんの唇が私から離れ、ほんの一寸先で目が合う。
近すぎる距離に眩暈を起こしながら、私はようやく訪れた羞恥心に両頬を手で覆った。
「なっ……! いきなり何すんのよ!」
慌てる私とは裏腹に、悠ちゃんはキョトンと首を傾げている。
「何って……キスだけど?」
「ししし、知ってるよそんなこと! 私……初めてだったのに」
「いや、二度目だけど?」
「え?」
悠ちゃんの言葉に私は目を見開いている。
「ちっさい時にだけど、遊びでしたことあるよ、俺とお前。結婚しようねーって」
平然と昔の恥ずかしい記憶を口に出す悠ちゃんの態度になんだか腹が立って、私は思わず声を荒げた。
「もー! そんなのノーカウントだよ! ムードぶち壊し! 憶えてるけど、そういうのは黙っててよ!」
でも、これではっきりしたことが一つある。
悠ちゃんと初めてキスをしたのは、希望ちゃんじゃなく、私だったんだ。
順番なんて大した意味を成さないのかもしれないけれど、私はその事実がどうしようもなく嬉しかった。
一日、一分、一秒、時間が経過していく度に、改めて君を好きになっていく。
「ははは! まあ、これから改めてよろしくな、琥珀」
「……うん」
恥ずかしさを誤魔化すように、私は口を尖らせて小さな声で返答した。