彼が今、どんな顔をしているのか、涙で視界が歪んだ私にはハッキリ見えないけれど、きっと相当に困っているのだろうことは容易に想像がつく。

 それも当然だろう。

 だって私の汚い泣き顔は、鏡を通して全部悠ちゃんに見られちゃってるんだから。

 最悪。全部全部、台無しだ。

 一刻も早くこの場所から逃げ出したい。

 そう思って立ち上がる私を、帰ると察知したのか、悠ちゃんは背後から抱きしめた。


「悠、ちゃん?」


「勝手に自己完結させてんじゃねーぞ。バカ琥珀」


 悠ちゃんは私にそう言うと、腕の力を強める。


「ゆ、悠ちゃん、苦しい」


 息苦しくなるくらい、悠ちゃんは私を逃がすまいと抱きすくめている。

 一体、何が起こっているのだろう。

 悠ちゃんが、私を抱き締めているだなんて。

 私は夢でも見ているのだろうか?

 抗議しても、悠ちゃんは腕の強さを弱めてはくれなかった。


「放したら、お前また勝手に落ち込んで、泣いて、帰ろうとするだろ」


「……それは」


 だってそうしなければ、私はもっと傷ついてしまいそうだから。

 もう二度と、悠ちゃんとただの幼なじみに戻れる自信がないから。


「いいか、一度しか言わないからよく聞け」


 悠ちゃんは真剣な声色で言った。


「俺は、お前の気持ちに応えたいって思ってる」


 悠ちゃんの言葉を聞いた瞬間、私の瞳から再び涙が溢れてくる。

 瞳から流れ出す液体は化粧を落とし、私の心の中に積もった想いも成就という形で洗い流していく。

 この瞬間を、私がどれほど待ちわびていたことだろう。

 次に目を開けた時、どうかこの空間が夢でありませんように。


「ほ、本当?」


 涙混じりにそう聞くと、悠ちゃんはようやく腕の力を弱め、私を解放した。

 顔を両手で覆い、背を向けたままの私に、悠ちゃんは答える。


「お前の気持ちに応えたいっていうのは、俺の本心だから」


 その言葉を聞き届け、私はゆっくり彼の正面に振り返る。

 涙でぐちゃぐちゃになった顔のことなど忘れるくらい、私は彼の言葉に夢中だった。

 それくらい、嬉しかった。