「熱くないか?」
「ん~平気。あ、でもメイクよれるからあんまり引っ張らないでね」
「無茶言うなあ……」
悠ちゃんは、私の髪の毛を巻きながら苦笑い。
高校入学時、肩につかない程度の長さしかなかった私の髪の毛は、二月十四日現在、背中の真ん中程度まで伸びていた。
鏡の中の私は背後で真剣な表情を浮かべる悠ちゃんを見つめながら仕上げにリップを塗っている。
「ねえ、悠ちゃん」
「ん~? なんだよ」
今日、何度目か分からない問いかけに、悠ちゃんは生返事。
私の髪の毛をセットしているのだから仕方ないのだけれど。
そんな彼に、私は意を決して言った。
「好きだよ」
自分でも相当に唐突なタイミングだと思うけれど、いつも名前を呼ぶみたいに、そう、自然に言えた。
やっと、言えた。
私の告白をしっかり聞いていたであろう悠ちゃんは、その瞬間、静かにコテの電源を落とす。
「ピ!」と高い機械音が無音の室内に響く。
沈黙が続けば続くほど、私の期待は不安へと変わる。
もしかして、まだタイミングが悪かった? とか、やっぱり私の独りよがりだったのかな。
思えば悠ちゃんが私の告白を保留にしたのは、断る口実を探していたからだったのかな。
だからずっと返事がなくて、今、こんな状況になっているのかな。
そう思ったらどうしようもなく今までの自分の行動が恥ずかしくなってきて、惨めで、悲しくなってきて、私の瞳から大粒の涙が溢れ出す。
あーあ。せっかくお化粧したのに。綺麗な私で告白したかったのに。
最悪。早くなんか言ってよ、バカ。
断るならさっさと断れ。期待なんかさせんな。
「……うううっ」
漏れ出した嗚咽混じりの泣き声に驚いたのか、悠ちゃんが鏡の中で微かに動いた気がした。