二月十四日。

 バレンタイン当日。

 私は震える手で二宮家のインターフォンを押した。

 右手には、身だしなみグッズが入った手提げを持って。

 インターフォンを押してからほんの数秒、家主の声が聞こえるより先に扉が開いた。


「よう」


 私が来ることを知っていたように確認もせずに扉を開けたであろう悠ちゃんは、気怠そうに顔を覗かせた。

 そこで私は後ろ手に隠していた代物を悠ちゃんに差し出した。


「ハッピーバレンタイン!」


 それは、世の男の子たちが欲してやまないであろう今日の日の特別アイテム。

 女の子の想いが詰まった甘い甘いお菓子。

 ピンクの包装紙に赤いリボンのついた箱を悠ちゃんに手渡した私は、満面の笑みで彼の様子を伺っている。

 悪戦苦闘の末に作り上げたこのチョコレートと共に、私は今日、彼に――――大好きな幼なじみへ告白をしにやってきたのだ。


「え? ああ、バレンタイン」


 チョコレートを目の前に出された悠ちゃんは、まじまじと私の顔とチョコレートを見比べている。

 私が好意を寄せていると知っているものの、わざわざ幼なじみが休日に自宅までチョコレートを届けに来るとは思ってもみなかったのだろう。

 しかもこれから告白されるだなんて、もっと思っていないだろう。

 悠ちゃんは私の手からチョコレートを受け取り、「ありがとう」と小さく呟くと、玄関の扉を限界まで開いて言った。


「とりあえず、中入れよ」