見つけた彼女はどうやら未だ私の存在に気が付いていないようだ。
その原因は、彼女が手に持っている本が原因だろう。
見た所、彼女の前には既にカップが置かれていて、来たばかり、というわけではなさそうだ。
店内には希望ちゃんを含め、三人ほどしかお客さんの姿はないようで、その全ての人が一人で何やら机にノートやらパソコンを広げて難しい顔をしている。
正面からこちらに向かってくる私の存在にようやく気が付いた様子の希望ちゃんは、しおりもなしに読んでいた本を閉じると、笑顔で私を迎えてくれた。
「琥珀ちゃん、昨日ぶりだねぇ」
「希望ちゃん、早いね。いつからいたの?」
「ん、三十分くらい前かな」
「はや!」
まだ約束の時間まで余裕がある。
そりゃあまだ七海は来ていなくて当然か。
「まあ、一応今回この店指定したの私だしね……せめて二人より先に来ないと」
そう言って笑う彼女。
「そっか、七海は?」
七海のことを尋ねると、希望ちゃんは首を横に振った。
「なんか、少し遅れるってさっき連絡があったの」
苦笑しながら答える希望ちゃんの前でとりあえずマフラーを解いた私はそのまま彼女の向かいに腰を下ろす。