「いひゃい」
「くそー、幸せそうな顔しやがって」
「へへへ」
「でもそうかー、七海にも好きな人いるってことは、私たち、今年のバレンタインは青春だね!」
私の言葉に七海は首を傾げた。
「私たち?」
「私と、七海と、あと希望ちゃんも」
「あー、なるほど確かにそうかもね」
「七海は、ちょっと複雑だったりする? 希望ちゃんのこと」
「へ?」
私が心配していたのは、希望ちゃんが現在好きな人のことだ。
希望ちゃんの好きな人――――廈織くんは、フリとはいえ、一時期七海と付き合っていたことがあって、形式的には七海の元彼という立場になる。
今はそんな面影も消え失せ、ただの友達のようだけれど、もしかしたら何か思うところがあるのかもしれない……と思って聞いたのだけれど、七海は私の心配をよそに、呆気からんと答えた。
「あー……廈織くんのこと? 別に、なんとも思ってないよ? そもそも七海が廈織くんを彼氏にしたのって、カッコいいから友達に自慢できるなーって感覚だったし」
「あ、そうなんだ……」
「でも、今好きな人はそんなんじゃないんだよね。カッコいいけど、どんくさいってか、全然モテるタイプじゃないし。でも、バカがつくくらいのお人良しで、ほっとけなくて」
色々衝撃的な事実を知ってしまった気がするけれど、どうやら私の心配は取り越し苦労で済んだようだ。
好きな人のことを、楽しそうに語る七海の姿に、なんだかこちらまで楽しくなってくる。
「七海も上手くいくといいね、バレンタイン」
「うん! 当日結果報告しようね! お互い!」
「ダメだったら何かおごってあげるからね」
「もー、そんなマイナス思考なこと言わないでよー琥珀」
「ははは、ごめん」
来週に迫ったバレンタインに思いを馳せながら、私はすでに脳内で当日の予行練習を開始していた。