だから私は、橘の口から琥珀の話題が出る度に苛立ち、彼の口から「友達」と称されただけで、こんなにも悲しい気持ちになるのか。
これが恋なのか。
「ねえ橘」
「はい?」
「七海と――――私と付き合ってくれないかな。友達からでいいから」
「は――――はい?」
橘は顔を真っ赤にして、私の言葉に慌てている。
そんな姿に、思わず笑みがこぼれた。
「ふふ、ふはは、はははは! びっくりし過ぎー」
「だだだだだだって! 師匠が僕に告白? 僕が女の子から告白されてる?」
「変われって言ったのは橘でしょ? 私は見返りのない友達を目指すなら……恋人になるなら、橘がいいって思った。それくらいには橘のこと好きだよ、私」
私の度重なる告白に橘はついていけないようで、頭から湯気が出るほど赤くなり、熱くなり、その場で固まっている。
「ダメ、かな」
「そそそそそそんなことは……! 師匠は……柳さんは、本当に僕でいいんですか?」
「いいって言ってるじゃん~これ以上恥ずかしいこと言わせないでよ~」
「僕、正直まだ柳さんのこと、そういう風に見れてなくて、時間かかっちゃうかもしれないですけど、それでもいいんですか?」
どうやら彼は、私が思っているより臆病な性格のようだ。
そんな泣きそうな子供みたいな顔で私を見るなんて、知らなかった。
「……いいよ。だから言ったじゃん。友達からでいいって。まずは橘が私に見返りのいらない友情ってものを教えてよ。私が変わってからじゃないと、何をしても意味ないでしょう?」
「……分かりました。じゃあ、友達から……よろしくお願いします、柳さん」
「七海でいいのにー。私も真広って呼ぶからさあ。あ、名前は恋人になってからの方がいい?」
「こ! ……からかわないで下さいよ」
顔を真っ赤にさせながら頭を抱える橘がおかしくて、私は彼の横でいつまでも笑っていた。
私の初めての恋が身を結ぶのには、もう少し時間がかかりそう。
それでも私は明るい未来がやってくるのを確かに感じていた。
橘となら、友達になっても、恋人になっても、ずっと笑い合っていられる。
そう思えたから、私は自分の気持ちを伝えたのだ。
彼ならきっと、私を変えてくれる。
そう信じることができたから。