その人の姿を見ると、声を聞くと、名前を呼ばれると、どうしようもなく胸が高鳴って、心臓が痛いくらいに跳ねるの。
その人の近くにいると、いつもの自分じゃないみたいに何もかもうまくいかなくて、勝手に悲しくなるの。
その人の口から違う女の子の名前が出たり、その子と仲がいいって分かると、全部が嫌になって、悲しくなって、イライラするの。
その人に名前を呼ばれると、体温を感じると、どうしようもなく嬉しくなって、目に映る世界が輝いてみえるの。
ねえ、七海ちゃん、これってやっぱりアレだよね? 絶対そうだよね?
そう、私に相談に来る女の子たちは言った。
それは私の知らない感情であり、体験したことのないものだったけれど、彼女たちの変化を間近で見て、体験談を聞いてきた私は、それを基(もと)にさも自分が経験者であるかのように偽り、彼女たちの悩みを解決してきた。
そんな私だからこそ、初めて体験するこの気持ちにだって、迷うことなく明確な名前をつけることができる。
その感情の名前は――――恋。
ああ、そうか。
私は知らぬ間に――――橘に、恋をしていたのか。