「そんな悲しいこと、言わないでください。僕にとって柳さんは……師匠は、恩人なんです。師匠が僕に声をかけてくれなかったら、僕はいつまでも昔の思い出に浸っているばかりで、何も変わろうとしなかった……もう琥珀さんへの想いに望みなんてありません。最初から、その覚悟をしてから告白しなければいけなかったのに、僕はあの時、傷つくのが怖くて……フラれることで、琥珀さんとの接点がなくなることが怖くて、答えを貰わず逃げたんです。だからこうして今も引きずってしまっているんですけど」
だけど、と続けて橘は言った。
「師匠に今までの僕を捨ててもらったおかげで、吹っ切れました。琥珀さんが一番幸せになる選択を応援すると決めたんですから、僕はそれを邪魔するようなことをしちゃいけません。むしろ、琥珀さん以上に幸せになる努力をしないといけないんだって気が付きました。僕は琥珀さんのためにいろんなことをしてきました。それは好きな人であると同時に、大切な友達だったからです。だから……だから師匠も、そんな悲しいことは言わないでください。僕は師匠のことだって、もうとっくに友達だと思ってます。友達のために何かをすることは、見返りを求めるようなことじゃないですよ。してあげたいからする。そんな理由じゃダメですか?」
「七海は……そういう生き方を知らない」
「じゃあ、これからやってみましょうよ。僕を変えてくれたように、師匠も、変わってみましょうよ」