「……眼鏡屋さん?」
「正確にはフレーム専門店だけどね。あんたの眼鏡、いかにもガリ勉って感じのフレームなんだもん。少しはオシャレしてもバチは当たらないよ」
そう言って、私は橘が現在かけている眼鏡を見る。
彼が愛用している眼鏡は厚いレンズを四角く細い黒の全フレームが覆っているデザイン。
せっかくの全フレームが、もはや眼鏡を縁取る線、としての役割しか担っておらず、レンズとの厚さの差が絶妙にダサい。
「そうですかねぇ?」
橘は私の言葉に首を傾げて眼鏡を外し、まじまじと見つめている。
「ほら、あんたの眼鏡だったらこのフレームとかいいんじゃない? かけてみてよ」
私が彼に手渡したのは、太い縁の黒い全フレーム。
「ちょっと派手じゃないですか……?」
「あんたは元が大人しいんだから少しくらい派手にした方がいいの。今の自分を鏡で見てから言いなさい」
そして橘は試着用の鏡を見て目を輝かせることになるのだけれど、今までの段階で彼が自分の変化に気が付かなかったのは、彼がずっと下を向いていたせいだった。
橘は、私に変化を尋ねるばかりで――――自分の姿を鏡でまともに見ていなかったのだ。
結局、色々なフレームを試着してみたけれど、最終的に橘が選んだフレームは、一番最初に私が選んだものだった。
これで今日の変身計画はおしまい。