そんな経緯があり、私は橘を琥珀が「かっこいい」と思う男の子にするにあたり、彼を休日に大型デパートへ連れ出した。
私たちが住む町とは少し離れた都会の駅周辺に新設されたばかりの大型デパートには様々な店舗が入り込んでいて、デパート一つで大抵の用事が済んでしまうという、謳(うた)い文句があったのだが、いざ訪れてみるとその言葉もあながち嘘ではさなそうだった。
無理やり連れ出す形になった橘は浮かない顔をしていたけれど、私はそんな彼の様子などお構いなしに人をかき分けお目当ての店舗を次々とまわる。
本日の主役は橘なので、当然、足を踏み入れる店舗は彼が「変わる」ために必要なものが揃っている場所でなくてはならない。
橘は内股ぎみになりながら私の後を恐る恐るついてきた。
嫌そうだったけれど、文句は言わなかった。
変わることを拒否もしなかった。
だから彼はきっと慣れない場所に、行動に、緊張していただけなのだと思う。
だって、少しでも変化に対する期待を持っていなければ、鏡の中に現れた変身した自分にこんなに目を輝かせはしなかっただろうから。
私はまず、橘を連れて美容院へやってきた。
「まずは髪の毛を切る! こんな目が見えないくらい前髪伸ばしてたら表情なんて分からないでしょ」
「……うう」
彼は長く伸びた前髪を名残惜しそうに一指し指でつまみ、諦めたように頷いた。