「今日は大丈夫だったか? 学校」


 妹の鞄を肩にかけ直しながら、心配するボクに花音は笑って言った。


「大丈夫だよ。お兄ちゃんは心配性だね」


「でも……」


「私、最近は平和に暮らしてるよ」


 花音は母親の優性遺伝子を濃く受け継ぎ、美しく、愛らしく生まれた。

 美しい人間は、常に他人の嫉妬を買う。

 臆病な性格も原因して、花音はいじめの標的になっていた。

 泣いてばかりの妹を、ボクはいつも心配していた。


「そ、そうか」


「そういえば、お兄ちゃん、新しい彼女できたって本当?」


「え? ああ、うん。一応……」


「大事にしなよ」


 花音の言葉にボクは首を傾げた。

 いつもなら、すぐに小言が飛んでくるはずなのに。

 こんなにあっさり受け入れる花音を見たのは初めてだった。


 その日、それ以降、花音が学校での出来事をボクに話すことはなくなった。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 彼女の口癖は、いつもボクを酷く心配させてばかりだ。