それ以上先へ、私は踏み込むことを許されなかった。

 少なくとも彼は――――私の苦手な「優等生」の部類だった。


『そう。ま、私も本気で言ったわけじゃないし、本気にされても困るし……でも、あんまり言いふらさないでね。一応キャラってもんがあるからさ』


 これ以上仮面を被れないと悟った私は廈織くんの前では素顔を曝したのだけれど、彼は私に驚くこともせず、ただ笑って言い放った。


『言わないよ。誰にだって言いふらされたくない秘密があるものだしね。それに、安心していい。ボクには好きな子がいるんだ……だから、誰からの気持ちにも答えてあげることはできない。最初から、永遠に』


 彼の言葉を聞いて、私の持った感想は、「気持ち悪い」だった。

 廈織くんは自分のしている恋とやらに、好きな相手に対する気持ちに、並々ならぬ自信を持っているようだった。

 恋を知らない私には、その感情が理解出来なかった。

 今の琥珀の気持ちも、私には分からない。


「もっと早く話さなきゃとは思ってたんだけど……気がついたら新学期でした」


 恥ずかしそうにうなじをかく琥珀。

 私への報告がなかったことはともかく、長年こう着状態だった彼女と幼なじみの関係に進展があったことは喜ばしいことだろう。

 祝福してあげることが今、私にとっても琥珀にとっても最良の行動になるのでは。