「それで? 琥珀が二宮くんを好きだって分かって、七海的には予想通りだし、これからそのネタでいーっぱいからかえるなーって思ってたのに……」


 私は目の前の彼女に向けて大袈裟に悲しんでみせる。

 彼女はとても嬉しいことがあったようで、それを隠すこともなく、というか隠しきれておらず、表情筋が緩みに緩みきっている。

 私はそんな彼女に向けて、舞台役者のように用意した台詞を放つ。


「それなのに……告白する前に好きだってバレたってどういうこと! しかもそれが二学期の中間テストが終わってすぐの頃? もう冬休み明けたんですけど? 新学期だよ琥珀!」


 私が高校生になったらやりたかったこと。

 それが恋だった。

 そんな私の一度目の恋はどうやら私の一方通行で終わってしまったらしかった。

 他人行儀な物言いだけれど、それほど私も本気というわけではなかったし、いまいち「恋愛」という状態を理解しきれていなかったというのも大きな要因だろう。

 初めての彼氏――――久藤廈織くんは、そんな私の気持ちに気付いていたようだった。


『ねえ、私たち、お試しじゃなく本当に付き合わない?』


 私の軽口に、彼は言った。


『そういうのは、本当に好きな人ができた時に言うべきだよ』


『え~七海、わりと本気で言ってるんだけどな~』


『七海ちゃん、君は本当に誰にでも優しい女の子だよね』


『え?』


『誰にでも優しい。皆言ってるよ。結構モテてるみたいだし、だからこそなんだけど』


 彼は、私の浅はかな考えを隅まで見透かしているように、ただただ事実だけを述べた。

 痛いほど真っ直ぐに、裏表のない言葉で。


『自分を偽るのって、ツラくない?』