柳(やなぎ)七海(ななみ)は、高校教師をしている父親と、中学教師をしている母親の間に生まれた一人娘である。

 二人は結婚当初から子供を望んでいたが、そう思うようにはいかず、夫婦は長年の間子宝に恵まれずにいた。

 子供はもう諦めようか。

 そんな言葉が互いの頭の中に浮かぶようになった頃、神様が夫婦を哀れに思ったのか、ようやく二人の間に吉報が届く。

 母親に宿った新しい命は、すくすくと十月十日を母胎で過ごし、大きな産声とともにこの世に生まれ落ちた。

 生まれた赤ん坊は、玉のような女の子だった。

 赤ん坊の両親は、待望の第一子に七海と名付け、溢れんばかりの愛情を注いだ。

 七海がこれから生きていく中で、なるべく苦労しないように、そのために、私たちが与えてやれるのもは一体なんだろう?

 両親がその問いへの答えとして用意したもの。

 それが「知識」だった。