* * *
「あ、花音(かのん)? 今からそっちの校舎行くから、待ってろよ」
久藤廈織は携帯電話を片手に、通話をしながらとある場所を目指していた。
「ん? ああ、分かってるよ、大丈夫。お前は心配性だな」
電話の相手はボクにとって一番大切な子。
「あ、花音! こっちだよ」
彼女は、
「お兄ちゃん!」
ボクの大切な、たった一人の妹。
花音を見つけると、足早に駆け寄る。
慣れた手つきで妹の鞄を肩にかけた。
「いいのに。重いよ?」
「重いなら尚更だろ」
中学生の女の子が持つには重すぎる鞄の中には教科書がぎっしり詰まっている。
彼女がこうして毎日全ての教科書を持ち帰るのには理由があった。