「あのなあ……いいか? お前と俺には二人の母さんがいるって前に話したことあったろ」
「うん」
幼い頃、私たちの学校のお迎えや授業参観などの場面で、どちらかの親が来られないような時は、どちらかの母親が代役として私と悠ちゃんの母親役を務めてくれた。
だから昔の記憶として、私たちにはお母さんが二人いるね、と笑い合った思い出がある。
悠ちゃんが話そうとしているのは、その当時のことだろう。
「だったら、それは父さんでも同じことなんだよ。お前は知らないかもしれないけど、仕事で忙しかった父さんに代わって、琥珀の父さんにはよく遊んでもらったことがあるしな」
「……そうなんだ」
それは私の知らない過去だった。
悠ちゃんしか知らない、お父さんとの思い出。
「だから、琥珀の父さんは俺にとっての父さんでもあるんだよ。納得した?」
「うん、すごく」
本当は、悠ちゃんがお父さんのお墓参りに来ているのではないかという推測もなかったわけではないのだが、それを思い出さず、口に出さなかったのは、心のどこかで私が悠ちゃんを身内と認めたくなかったからなのかもしれない。
私が悠ちゃんと家族にはなるのはもっと先。
彼と気持ちが通じ合った後でなければ意味がない。
そう強く願っていたから。