学生たちが行き交う道に背を向け、土手の斜面に腰を下ろす。

 プシュッと炭酸飲料の入ったペットボトルを開け、高橋(たかはし)琥珀(こはく)は中身を一気に喉の奥へと流し込む。


「琥珀、俺にもソレ頂戴」


 私から手渡された炭酸飲料をゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干し、奴は、「ほっ」とため息をついた。


「ごちそうさま」


 空気の泡が弾ける真っ黒な液体が入っていたはずの容器は、中身が無くなったことで軽くなり、向こう側が見渡せるようになった。


「全部飲むなんて最悪! 私まだ一口しか飲んでないのに!」


「おー、悪いな」


 行き場のない怒りを拳に閉じ込めながら、キッと鋭い目付きを奴に向けた。


「悠ちゃんさぁ」


  話題を変えようと声をかけた私に奴は首を傾げた。


「希望ちゃんと付き合ってるんでしょ? いくら私が幼なじみだからって、希望ちゃんに見られたら殺されるよ」


「は? 誰が」


「決まってるでしょ、悠ちゃんがだよ。私もかもしれないけど」


 幼なじみの二宮(にのみや)悠(ゆう)希(き)は私の言葉を鼻で笑った。


「付き合って三年になるんだぞ? 今さらそれくらいで怒らないさ」


「そうかなぁ」


 悠ちゃんは中学一年生の時から学校のマドンナだった春田(はるた)希望(のぞみ)ちゃんと付き合っている。


 悠ちゃんはなにも分かっていないんだ。

 私が希望ちゃんの立場だったなら、幼なじみの女の子と彼氏が仲良くしている場面なんて見たくない。

 それが恋する乙女心というものだ。

 だって私も、そんな女の子の一人だから。