「母さん、俺、琥珀を連れて屋上で風に当たってくるよ。車酔いなら、少し外の空気を吸った方が楽になるだろうし」
「うーん、それもそうねぇ。琥珀ちゃん、大丈夫? 私たちも行こうか?」
「いいよ。元はといえば母さんたちの用事に俺らがついてきただけなんだから。そっちはそっちで話したいこともあるだろ? 大丈夫だよ、二人だけで。もう高校生だぜ?」
「分かったわ。じゃあ、落ち着いたら琥珀ちゃんでも食べられるお店を探そうか。夕食にはまだ少し早いし。気をつけてね。何かあったら電話して」
「了解」
悠ちゃんと晴香さんの会話を聞きながら、私は今何が起こっているのか理解出来ずに固まっている。
悠ちゃんと、二人で屋上?
「ほら、行くぞ」
「う、うん」
重ねられた手の平に、握られた指の力強さに、私の心臓が飛び跳ねている。
それこそ、お母さんたちが微笑ましくその一部始終を見ていることなんて、気にならないくらいに。
「じゃ、行ってくる」
「ちゃんとリードしなさいよー、王子!」
「っ! 王子じゃねえ!」
晴香さんの言葉で現状を理解した私は、頬を染め、とっさに自分の手を引っ込めようとする。
それでも悠ちゃんの手は私の手を掴んだままで、言い訳のしようもなく、私たちはお母さんたちに見送られながら屋上へと向かうことになった。