『琥珀! あんた、こんなに部屋散らかして……アイロンの電源も入りっぱなしだったし、出掛ける気ないなら置いていくわよ!』
『ふぇ……?』
寝ぼけ眼を擦り、お母さんの言葉を聞き終えた瞬間、私の頭を今から待っている楽しい予定が駆け抜け、反射的に覚醒した。
そうして今に至る。
寝てしまったせいで、せっかく整えた髪の毛は台無しになってしまっていたのだけど、直す時間は既に無く、私は仕方なくセミロングの髪をゴムで二つに結ぶ。
「はぁ……」
バスに乗り込んだ後も、私の憂鬱は続いた。
「琥珀、大丈夫なの? 顔色悪いけど」
「うん……外見てればなんとか」
私は窓の外に広がる景色を眺めながら口で浅い呼吸を繰り返す。
意識が澄み渡っている……ともいえない状況なので、お母さんへの返答もどこか上の空。
この状況なら、むしろ意識を飛ばしていた方が楽なのではなかろうか。
そう考えてしまう程度には絶賛不調のバス車内での現在の私。
私は自分が車に酔いやすいという体質をすっかり忘れていた。
それから約三十分後。
ようやく目的地周辺にたどり着いた私たちは、バスから駆け下りると急ぎ足で二宮親子が待つ駅前のデパートに急いだ。
電話で謝りながら居場所を聞いているお母さんについて歩くこと数分、私は休日に悠ちゃんと会うことになった。
駅前に新設されたばかりの大型デパートは、休日ということもあり、多くの家族連れでにぎわっていた。
人混みをかき分け、お母さんと一緒にエスカレーターで三階にあるフードコートを目指す。
「あ、奈々子(ななこ)ちゃん、こっちこっち!」
お母さんを奈々子ちゃんと呼ぶのは私の知る限りお隣さんしかいないので、それを気に留めることもなくその女性の元へ足を進める。