「一年生のみなさん! 入学して一か月が経ちました。学校には慣れましたか?」
担任の言葉を片耳で聞き流しながら、高橋琥珀はぼんやり窓の外を眺めていた。
「ねえ、琥珀」
「んー?」
「どうかしたの? 元気ないね」
「寝不足」
目の下に刻まれたクマをなぞりながら、私は苦笑いを浮かべる。
「高橋さん! 先生に背を向けて、話を聞いていましたか?」
唐突に担任の雷に打たれ、私は慌てて前を向いた。
怒られる原因となった七海は小声で「ごめん」と謝る。
私は彼女に後ろ手でピースサインを作ってみせた。
「えー、もう一度言います。六月の頭に新入生の交流を兼ねて二泊三日の勉強合宿に行きます」
クラスのあちらこちらから不平不満が上がる。
「文句言わない! うちは進学校。勉強にはクラスの団結力も大切なの。この合宿で早くみんなと仲良くなってね! 一限は合宿の班決めに使うから」
始業の鐘の音と共に、生徒たちは一斉に机の移動を始めた。
あらかじめ用意されていたクジのおかげで班決めはすぐに終わった。
一組五人の計五班。私は三班。
「高橋琥珀です、よろしく」
「柳(やなぎ)七海でーす!」
七海はクジを誰かに交換してもらったらしい。
「……神谷(かみや)優(ゆう)です」
ボサボサ頭で猫背の神谷優は欠伸をしながら一言で自己紹介を済ませ、目線を逸らした。
「久藤(くどう)廈(か)織(おる)でーす。七海ちゃんも琥珀ちゃんも可愛いねー! よろしくね」
切れ長の瞳に長い睫毛。
高い鼻。
整った容姿を持った久藤廈織は笑顔で自己紹介をした。
そして五人目。
「廈織……女子口説いてんじゃねーよ。あ、二宮悠希です。よろしく」
悠希はため息をつきながら自己紹介を終えた。