「そうだっけ……」


 当時の発言が恥ずかしくなり、つい、はぐらかすようなことを言ってしまった。

 彼女の口からその言葉が出たということは、少なくとも、当時のボクは彼女を少しでも勇気づけられていたのだろうか。


 そうだとしたら、嬉しい。


「そうだよ。だからもっと明るく物事考えよう! ね?」


「うん、そうかもしれないね」


 こうしてボクらはこの日、「共犯者」という関係に終止符を打った。

 代わりに得たものは、かけがえのない一人の友達。

 ここに来るまで随分遠回りしてしまったけれど、ボクたちのペースはこんなものなのかもしれない。

 ゆっくり、ゆっくりと、新しい関係を築き上げていけたなら、それでいい。


「ちなみに、廈織くんは新しい恋をしてみようっていう気はあるの? 今すぐじゃなく、いつかの話でいいんだけれど」


「うーん、まあ……いつまでも引きずってたら花音にも申し訳ないし……いつかは、花音より好きになれる恋人が現れたらいいなとは思ってるよ」


「じゃあ私……立候補しちゃおうかな」


「え?」


「その、いつかの恋人に」


「……え?」


 いたずらな笑顔で彼女は言う。

 ボクは突然の彼女の発言に顔を真っ赤にさせながら目を見開いて驚いていた。

 彼女が……ボクを? え? ――――本当に?

 彼女が単にボクを慰めようとしてくれたのか、本気なのかはまだボクには分からない。

 それでも、ボクの心は確かに今までとは違う感情に満ち溢れていた。

 ほら、こうして、たった一言で世界は、ボクらの関係は、目まぐるしく変化していく。

 明日がどうなるのか、今のボクにはまだ分からない。

 それでももう少しだけ、彼女に歩み寄ってみようと思う。

 きっと彼女は、ボクを明るい場所へと連れて行ってくれる。

 そんな気がするから。