「ううん、いいと思う。それぞれの問題がひとまず解決したのだとしたら、それは喜ぶことだろうし、だからって会うのをやめようって究極論になる必要もないと思うし」


「そう言ってもらえると嬉しいな……廈織くんに呼び出された時、本当はちょっと怖かったから」


「怖い?」


「絶対そういうこと言われると思ってたから……廈織くんって結構ストイックなところあるじゃない? だから、一度決めたらそのまま一つの結論しか考えてないんだろうなーって思って」


 そう言って、彼女はグラスを持ち、溶け始めた氷を揺らして音を奏でる。


「あんまり複雑に考えなくていいと思うよ。前に廈織くん、私に言ってくれたじゃない。世の中の常識なんて、ボクは信じないよって」


 確かにそんなことを言った記憶がある。

 その時のボクは、なんというか、花音への想いが積り、かと言って吐き出せる場所など共犯者である彼女の前しかなくて、自暴自棄になっていた。

 だからこそ、そんなことが言えたのだ。

 本当は、世の中の常識に囚われているのは誰より、ボク自身の方だったというのに。

 当時のボクにとってその言葉は、自分自身に向けた理想論のようなものだった。