ほんの少し開いたカーテンの隙間から射し込む朝日に眩しさを感じ、久藤廈織は起床する
いつもと変わらない目覚めに、ボクは最初、長い夢を見ていたのではないかという錯覚に陥った。
けれどそれこそが錯覚で、嫌な記憶を脳が勝手に書き換えようとした結果であることは明確で、証拠にボクの勉強机の上には花音の直筆と思われる「今日は学校に用事があるので家を空けます。お兄ちゃんも出かけるなら家の戸締りしてね」と記された紙切れが勉強机の上に無造作に置かれていた。
それは普段、ボクの部屋に滅多に入ることがない花音がボクの部屋にいた証拠であり、昨夜の記憶を現実のものだと認識するのに十分なものだった。
ボクは昨夜――――失恋したのだった。
その事実を目覚めと共に再確認したボクのそれからの行動というのは、実にシンプルなものだった。
簡単に言えば、何も変わった行動はしなかった。日曜日なので、いつものように私服に袖を通し、朝食を適当に済ませ、歯を磨いてスマホを弄る。
それでも心は落ち着かず、ボクは何気なしに「共犯者」に連絡を取った。
彼女にだけは、昨夜のことを話しておかなくてはいけないような気がしたからだ。
無料チャットアプリで彼女に連絡を取ると、即座に既読が付き、ボクらはいつもの密会場所であるカフェで会うことになった。