ボクは花音に言われるがまま、ベッドの上に座り、手を伸ばす彼女の小さな体を引き寄せ、優しく抱き締めた。

 ボクとは違う高いシャンプーの良い香りがして、思わず頬を髪にすり寄せる。

 愛しいものを愛でるように。慈しむように。

 二度と訪れることはないであろうこの瞬間を、空間を全身に刻み込みながら。


「ずっと好きだったよ。愛してた」


「私も……ありがとう――――お兄ちゃん」


 耳元で聞こえた花音の言葉が胸に刺さる。

 これで、ボクたちの恋は終わったのだ。

 蕾は華を咲かせる前に腐り落ちてしまった。

 それがボクらの選んだ道。違えたものの末路だ。

 後悔はしていない。

 だってボクは、彼女に気持ちを伝えることができたのだから。

 それでいい。それだけで十分だ。


「ううう……ひっ……うう……」


 ボクの腕の中で、花音は最後の悪あがきとでもいうように、小さな子供のように夜明けまで静かに泣き続けた。

 ボクはそんな彼女の背を、何も言わずに一晩中撫でる。

 朝日が昇ればボクらはまた、兄と妹に戻るのだから。

 これくらいの蛇足は許してほしい。

 それは、もう二度と、交わることのない恋なのだから。

 愛だったのだから。