いつも通りベッドに潜り込んだボクの部屋に訪問者が現れた。
ボクの部屋に現れた訪問者はドアをノックすることもなく、足音を消し、物音を立てないように部屋の中に侵入したようだった。
そしてあろうことか、タヌキ寝入りを決め込むボクのベッドにまで侵入してきた。
壁を見つめる姿勢で横になっていたボクの背から侵入者はベッドに潜り込み、密着こそしていないものの、その頬を、両手の平をボクの背に預けて小さく息をついた。
「……お兄ちゃん」
花音だった。
ボクの最愛の妹が、からかっているのか、夜這いじみた行動を兄にしかけてきたのだ。
その兄に、長年の間、貞操を狙われ続けているとも知らずに。
そうは言っても、長年の間に培われたボクの理性は鋼のように固いので、このままタヌキ寝入りを続行しようとしたのだけれど、その思惑は、あっさり打ち砕かれてしまった。
花音がボクに抱き着いてきたからである。
両足でボクの腹を固定し、両手でボクの胸板を羽交い絞めにしながら。
これにはさすがのボクも反応せざるをえず、なんとも間抜けな声を出してしまった。
「うおっ!」
「……お兄ちゃん、起きてるでしょ」
諦めて声を発したボクに、花音は不機嫌そうに「やっぱり」と返す。
「……なんだよ、寝苦しいんだけど」
平静を装って、いかにも花音の存在を邪険に思っているかのような声色を目指したが、心臓は今にもはち切れそうなほど脈打っており、それはボクの胸に両腕を回す花音にも伝わっていると思われ、ボクの抵抗はただの強がりとして処理されてもおかしくなかった。
けれど花音は、焦るボクのことを指摘することはなかった。
ただ、小さな子供のようにボクの背中に顔を埋めるだけだった。