それから母さんは花音の好物ばかりを並べた食卓で、ボクにしか話していなかった花音の生い立ちを彼女に告白した。
花音はそれを黙って聞いていたかと思うと、好物の唐揚げを飲み込んでから、母さんに向かって言った。
「お母さんが謝るようなことじゃないでしょ。ちょっと驚いちゃっただけ。でも、全部知れてよかったかも。家族の中で隠し事なんてしたくないし」
「花音……」
「産みの親より育ての親ってよく言うじゃん。私のお母さんは今のお母さんだけだよ。私にはお兄ちゃんもいるし、お母さんと血の繋がりがなくたって、何の問題もないでしょ?」
「そうね……うん、花音の言う通りだわ」
母さんは目に涙を溜めて花音の言葉を聞いていた。
きっと、小さな体で、頭で、沢山のことを考えたんだろうな。
その年で少々達観してしまっていることは気にかかるけれど、花音なりに苦労した結果が今の姿なのだと思うとそう不思議にも感じられなかった。
これで全てが元通りになる。
家族の形を保ったまま、ボクは花音を愛し、他の誰も愛することのないまま、大人になる。
そう思っていた、その日の夜のこと。