*   *   *


 希望が教室に戻ると、渚と葵は彼女の前に駆け寄ってきた。


「希望……うちら、勝手にあんなことして、ごめんね」


 申し訳なさそうに頭を下げる二人の姿に、希望は明るく言った。


「いいわよ、気にしないで。私もきついこと言ってごめんね」


 満面の笑みを浮かべる希望に、渚と葵の表情も解れていく。

 希望は自分の席に座ると、窓の外を眺めながら「ふう」とため息をついた。


「……人の気も知らないで」


「希望? なにか言った?」


「なにも? 気のせいよ」


 満面の笑みを浮かべる表情とは裏腹に、希望は机の下で爪が皮膚に食い込むほど強く拳を握りしめていた。




――――熟れた果実が潰れるように、少女の心は悲鳴を上げていた。

 その事実に、今はまだ誰も気が付かない。