「花音、夕食だぞ」


 部屋の中に花音の姿は無く、勉強机の上には「探さないでください」という紙切れが無造作に置いてあった。

 これ以上隠すことができないと思ったボクは、仕方なく昼間のできごとを母さんに話した。

 母さんは、話を聞いた途端に青ざめる。


「そんな……どうしよう」


 顔面蒼白の母さんを見て、ボクはどこか安心していた。

 母さんは血の繋がらない花音を心の底から心配している。

 その事実が、この家族を今まで繋いできた確かなものだ。

 それなのに、ボクが壊した。

 いつ壊れてもおかしくなかった家族の形を、均衡を崩してしまった。


「ボク、花音を探してくるよ」


「でも……」


「母さんは花音が帰ってきた時のために家にいて。何かあったらすぐに電話するから。大丈夫。ボクはあいつの兄さんだ。すぐに見つけて帰ってくるよ」


 母さんを安心させるため、ボクは満面の笑みでそう言った。

 男親のいないこの家で、家族を支えるのはボクの役目だ。

 そのボクが、自らの手で家庭を壊すということは、あってはならない。

 ボクはあくまで兄として、家族の支えとして、妹を探しに行く。


「行ってきます」


「気をつけてね」


 母さんに見送られながら、ボクは日の沈みかけた外へ妹を探しに飛び出した。