花音の生い立ちを知ったのは、母さんが父さんと別れてすぐの頃だった。

 ボクの不注意から真実を知ってしまった花音は、それ以上何も言わずにボクの横を通り過ぎ、自室へ籠ってしまった。

 ボクは頭が真っ白になり、その場に立ち尽くす。

 机の上には冷めてしまった珈琲がほんの少しだけ残っている。

 ボクは妹の残した珈琲を飲み干すと、大きな溜息をついた。

 母さんから真実を聞かなければ、ボクは妹への歪んだ想いを自覚せずに済んだのかもしれない。

 いつからから、ボクは妹のことを異性として見ていた。

 物心つく前はそれがいけないことなのだという認識はなかったが、成長するにつれ、自分が抱く感情の異常性に気が付いた。

 血の繋がりがある事実に変わりはないはずなのに、片親だけの繋がりだと知ると、どうしようもなく嬉しくなった。

 それは当時のボクが血の濃さに異常性を見出していたから。

 血縁関係が薄まれば、罪の意識も同じように薄まるような気がしていた。

 本当はそんなこと、絶対にありえないのに。

 妹が残したものを食べたり、触れた場所に自分も触れてみたりした。

 想い続けた年月の分だけ行動は異常性を増した。

 それでも、無理矢理にでも自分の想いを遂げようとしたことは一度もなかった。

 それはボクが花音を一人の女性として愛しているのと同じように、たった一人の妹として愛しているから。

 この想いは墓場まで持っていくと決めていた。

 そうして事件は起きた。

 夕食の時間になってもリビングに顔を出さない花音を心配し、ボクは気まずさを抱えたまま妹の部屋の前に立った。