「ねえお兄ちゃん」


「ん? どうした花音」


 夏休みが終わり、学校中の生徒が中間テストに向けて勉強に精を出す九月の中頃、土曜日。

 花音はソファでテレビを見ながらボクに声をかけた。

 このところ、妹とまともに会話をしていなかったボクは平然を装いながら返答した。

 花音はボクの手から甘い珈琲を受け取ると、おもむろにテレビの電源を落とした。


「今日、お母さん仕事?」


 緊張しながら花音の言葉の続きを待っていたボクに、彼女は何気ない質問をした。


「今日は夕方の四時頃には帰るって言ってたぞ」


「ふーん。そう」


 正午を指す掛け時計に視線を向けながら花音は納得した。

 彼女がいつもつけっぱなし状態のテレビを消した理由は分からないままだったが、ボクはもう一度電源を入れようとは思わなかった。

 理由を聞くことすら躊躇われたのは、妹がまだ何か言いたそうにしているのを感じたからかもしれない。

 ボクは昼食で使った食器を片づけながら彼女の様子を対面キッチンの向こう側から見ていた。

 花音はボクが食器を片づけ終わるまで何も言わずに真っ暗になったテレビ画面を見つめていた。

 片付けを終えたボクは、居心地の悪さからおもむろにリビングを出て行こうとする。

 その時。


「ねえお兄ちゃん」


 また、花音から声をかけられた。