私は彼に、通話状態のスマホを渡す。
悠ちゃんは黙ってそれを受け取ると、何も言わずに通話口を耳に押し当てた。
「希望」
『……悠希?』
ここまでくるのに、一体どれほどの時間がかかってしまったのだろう。
気まずさからお互い意地の張り合いを続け、いつの間にか長い時間が経過してしまった。
でも、まだ、変えられる。
悪いしこりになりつつある思い出を、ほんの少しでも砕けるのなら、その為に動かなければ。
それは彼女のためでもあり、彼のためでもあり、私自身のためでもある。
「うん、俺……その、元気にしてたか」
『なんか爺臭い言い方。私はいつも通り元気よ』
「そっか」
どこかよそよそしい、ぎこちない会話はスマホの通話音量を大きく設定したままだったので真横の私にも聞こえる。
「あのさ」
『何』
悠ちゃんは慎重に言葉を選んでいるように見えた。
与えられたチャンスは一度だけ。
この機を逃したら、次はないかもしれない。
「俺……分かったんだ、あの時お前が言ってたこと。琥珀は確かに俺の幼なじみで大切な人だけどさ……けど、それは彼女だったお前をないがしろにしていい理由にはならないよな」
真横で突然呼ばれた名前に驚き反応しながら、それより「大切」と称された自分の悠ちゃんの中での立ち位置に悲しくなる。
「俺の知らないところでお前をずっと傷つけてたんだろうな。不安にさせてたんだろうな。気が付かなくてごめんな……本当にごめん。こんな俺を好きになってくれてありがとうな」
やればできる男なのだ。
背中を突いてやらなければ本領を発揮できないのが惜しいところだが、本当に決めるべき場面ではしっかりとその役目を果たす。
それが私の幼なじみ。
二宮悠希。
かっこいい。
今のは、女の子的には百点ではなかろうか。
採点は私のさじ加減なので惚れた弱みとやらで大分甘くなってはいるが。