その夜。
珍しく悠ちゃんが私の部屋を訪れていた。
彼の本当の目的は家族旅行のお土産をお母さんへ手渡すことだったようだけれど、目的が達成された後も悠希のお母さんと私のお母さんが井戸端会議で盛り上がってしまい、帰り時を見失った悠希が久しぶりに私の部屋に顔を出したというわけだ。
私は二宮家が旅行先で買ってきたというチョコの包みをさっそく広げて口の中に小さな塊を一つ放り込む。
「んー! あまーい! さっきまで勉強漬けで糖分が足りなかったから助かったよ」
悠ちゃんは至福の笑みを浮かべる私を見てつられたように笑顔を見せた。
「あいかわらず、好きなものを幸せそうに食う天才だよなあ……お前は」
「え、別に普通じゃない?」
「少なくとも、俺の周りにはいねえよ。お前みたいな奴」
「ふーん」
言いつつ、二つ目の包みを開ける私の前に、悠ちゃんは右手を差し出した。
「何よ、この手は」
「俺にもくれよ」
「えー、これは高橋家に持ってきたお土産じゃないの?」
露骨に嫌そうな顔をして答える。