「まあ、確かに聞いたことはあるけれど」
「やだ、もう二人とも! それはあくまで噂でしょう。実際に私本人が言ってることを信じてよ」
ごもっともである。
「ははは、それもそうだね。でも七海、希望ちゃんになら、ちゃんと勉強教えてあげられる自信あるよ」
「本当? でも、どうして私なら? 琥珀ちゃんじゃダメなの?」
「希望ちゃん、数学以外は得意でしょ。特に国語。七海、国語だけは希望ちゃんに勝ったことないもん」
「ええ、まあそうだけど」
と言っても毎回同率一位なのだから、この場合どちらも勝ったことにはならないし、負けたことにもならないだろう。
目の前の二人は私からしてみれば化け物と同じである。
頭の中身が同じとは到底思えない。
「だから大丈夫。教えるってことはね、相手にそれなりの読解力と理解能力が必要になるの」
得意げに人差し指を立てながら七海は答える。
「数学なんて、国語より簡単だよ。パズルみたいなもんで、公式さえ覚えれば答え、つまりはピースをそれに当てはめていくだけで答えが出るんだから」
「……まずは公式を暗記しろってことね」
希望ちゃんは真剣な表情で言いながら、床に置いていた自分の鞄を漁り、中から私が手にしているものと同じ、数学の教科書を取り出した。
「よし、頑張る!」
「公式覚えたら、あとは数をこなせばなんとかなるよ! 一緒に頑張ろう」
「うん、ありがとう七海ちゃん」
「早く終わらせて帰るぞー!」
「「おー!」」
七海のかけ声に元気に返答した私たちだったが、天井に向けて高く上げた右手も虚しく、それから私と希望ちゃんは七海を質問攻めで疲れさせ(主に私のせいなのだけど)結局、帰宅できたのは夕日が沈むギリギリの時間になり、先生自らの怒声で教室を追い出されてからだった。