「ちょっとー、聞こえてるんですけど。いくらなんでも酷くない? バカっていうのは否定できないのが悔しいけど」


 私の冗談が分かっているように、七海は笑った。

 しばらく首を傾げたままだった希望ちゃんは、私たちの休憩という茶番が終わったところで「そういえば」と前置きをして言った。


「七海ちゃんは普段どうやって勉強してるの? 私、勉強の効率が悪いから、何かいい方法があれば教えてほしいなと思って」


「えー、そう言われても特に意識してやっていることなんかないしなあ……だいたい皆と同じように授業聞いてるだけだし」


「じゃあ、ノートのとり方が変わっている、とか?」


「ノートはとったことがない」


「ええ……」

 普通だよね? といった表情の七海に希望ちゃんは質問したことを後悔しているように全力で引きながら、それ以上の質問をやめた。

 彼女は残念そうに言う。


「実は私、数学が苦手で……七海ちゃんと琥珀ちゃんに教えてもらおうと思って来たのだけど……難しそう、だよね?」


「へえ。希望ちゃんにも苦手なことってあるんだ」


 そう言ったのは七海。


「七海は希望ちゃんに一体どんな理想を持ってるの?」


 溜息と肘をつきながら聞くと、七海は浅く腰掛けていた椅子に座り直し、私の方に向き直って言った。


「いや、だって有名な話でしょ。春田希望は容姿端麗、なんでもできる皆のマドンナって」