「ほら、希望ちゃんも机くっつけちゃいなよ」
そう言いながら、私は斜め後ろの机に手をかける。そのまま豪快に音を立てて机を私たちの方へ引き寄せる。
私の行動をその場でジッと見つめながら、希望ちゃんは人目を気にするようにして言った。
「でも……いいの? ここ、人の席でしょう?」
「へーき、平気。この席の奴、帰宅部だから今日はもう帰ったよ。だから遠慮なく借りても後で元に戻しておけば問題なし!」
そう言って「ほら」と借り物の机を叩くと彼女はようやく安心して肩にかけていた鞄を床に置き、スカートの裾を押さえながらゆっくり着席した。
「そっか、それなら……でも、なんだか人の机って緊張する……」
ほう、と息をつき、眉を下げて笑う希望ちゃんに、私と七海は顔を見合わせて笑った。
「七海ちゃん、久しぶりだね。元気だった?」
「うん、久しぶり。夏休みの時以来だよね!」
「七海ちゃん、私ね、旅行中に携帯番号とメールアドレス聞くの忘れちゃって……連絡したかったんだけど出来なくて。だから、帰る時にでも教えてくれる?」
希望ちゃんと七海は互いの連絡先も知らない、それこそ会話の手段が対面しかないほどの仲でしかない。
「あーそうだったね、うん。じゃあ後で交換しよ」
私は旧友のように仲睦まじい雰囲気を醸し出す友人二人の様子を右手の人差し指と親指でペンを回しながら見ていた。
学年一の秀才であり、問題児である七海。同じく学年一美しく、学業も申し分ない優等生、希望ちゃん。
こうして私の前に並ぶ二人を客観的に見ると、私の凡人さが逆に非凡となって浮き彫りにされる。