「琥珀ちゃんたち、ちょっといいかしら」


 中間テストを控え、焦りがほんのり滲んだある日の放課後、教室の後方の扉から顔を覗かせ、そう声をかけてきたのは、隣のクラスであり、学年で一番のマドンナと噂される私の友達、希望ちゃんだった。


「希望ちゃんじゃん! どうしたの? そんなところにいないでこっちにおいでよ」


 本来、クラス間を生徒が移動する行為は禁止されている。

 大方は黙認されているが、あまりに目に余る場合は咎められたりもする。

 そんな中で希望ちゃんは今や誰も守らない決まりを律儀に守っていた。

 放課後は基本的に出入り自由、という暗黙の了解が私たちの中にはあった。

 今も教室の中には他クラスと思われる生徒が数人混じっている。

 私と七海を含め、居残りをする人数が多い理由は、冒頭でも述べた通り、中間テストがあるからなのである。


「じ、じゃあ……お邪魔します」


 首をすくめるようにお辞儀をして、教室内に恐る恐る足を踏み入れた希望ちゃん。


 私は席順で真後ろの七海と机を向かい合わせにくっつけて、中間テストに向けた勉強会を開催していた。

 私の机の上に置かれているのは基本の筆記用具、山積み状態の教科書――参考書。