高校生になって初めての夏休みが終わり、新学期が始まろうとしている。

 曲がりなりにも進学校ということもあり、夏休みの課題は薄い文庫本ほどの厚みがあった。

 そんなありえない量の課題に生徒たちが頭を悩ませている中、春田希望は分厚い紙の束をまだ何も置かれていない教卓の上にドサリと置くと、それが当たり前のように自分の席へ戻った。

 周囲のざわめきを気に留める様子もなく、窓際の席から青い空の広がる外を見つめ、溜息を一つ。

 気が重くて仕方がない。

 数日前、花音ちゃんの誘いで家を訪れた私は、廈織くんの前で確かに琥珀ちゃんへ今までの行いを謝罪すると宣言した。

 その決心が、時と共に揺らぎ始めている。

 怖かった。

 この決断が本当に正しいものなのかすら分からないまま、自分の正義に従って行動した結果がどうなるのか。

 今度は私がかつての彼女のように酷い目に遭うかもしれない。

 全ての元凶である私がそんなことを言える立場ではないことは分かっている。

 それでも、怖いのだ。

 始業式が終わり、放課後、私は美術室の前にいた。

 お目当ては美術部員の琥珀ちゃん。本来、帰宅部だった琥珀ちゃんだが、気持ちの変化か、夏休みに入る少し前から美術部に入ったらしい。


「あのー……琥珀ちゃんいますか?」


 恐る恐る美術室の中へ入ると、美術部員であろう生徒たちが私の登場に一斉にこちらへ視線を向ける。

 突然の注目に気圧されながら琥珀ちゃんの姿を目で探す。


「あ、いた!」


「はへ?」


 私の存在を確信した琥珀ちゃんは、口にくわえていたクッキーを素早く噛み砕き、飲み込みながらこちらへ駆け寄ってくる。