「母親がいなくて寂しい思いをしているのは、ボクより花音の方かもしれない……あいつは自分の父親の顔も知らないから、母親に今もべったりさ」


「年頃の女の子は女親になつくからね……そっか、花音ちゃんはお父さんに会ったことないんだ。廈織くんは?」


 今日の彼はいつになく饒舌(じょうぜつ)だった。

 彼がこんな話を自分にしてくれるようになったのかと思うと、嬉しさで飛び上がりそうになる。

 私の存在は、彼の中で少しでも良い方向にいるのだろうと信じたい。


「ボクは小さい頃に過ごした記憶が少しあるだけだよ。花音が物心ついた時には父親はもういなかったし、それを不思議には思わなかったな。それだけ酷い人だったんだよ」


 廈織くんは昔を懐かしむように目を細めて語った。