「……廈織くん」


「あれ、お兄ちゃん、起きてたんだ?」


 花音ちゃんは、廈織くんの登場を不思議そうに見ていた。

 現在の時刻は午前九時。

 廈織くんは私の姿に一瞬驚いた様子だったが、すぐに優しい笑顔を向けてくれた。


「花音が友達連れてくるって言ってたから誰かと思って待ってたけど、まさかそれが希望さんだったなんてね。正直驚いてるよ」


「こないだの旅行で仲良くなったの。毎日メールするくらいの仲だよ。ね、希望さん」


「う、うん」


 促されるままに首を縦に振る。


「そうか。お前に友達が出来て、お兄ちゃんも安心だよ。なにせ花音が友達を家に連れて来るなんて、小学校以来だからな」


「え?」


 驚いて出た声に、花音ちゃんは一瞬のうちに不機嫌になった。


「お兄ちゃん、あんまり余計なこと言わないで」


「あ、ごめんな」


 少し前に廈織くんから聞いた話。

 花音ちゃんは中学に入ってから学校でいじめを受けているらしい。

 今の発言は完全に廈織くんの失言だ。

 とても嫌だっただろう。

 出来たばかりの友達の前で自分がみじめな思いをしていると暴露されるのは、年頃の女の子にはツラい。

 兄の素早い謝罪に、花音ちゃんの機嫌がそれ以上悪化することはなかった。


「もういいよ。希望さん、暑いし中に入ろう? 冷たいジュースもあるから」


「うん、ありがとう花音ちゃん」


「希望さん、花音のこと、よろしく頼むよ。ゆっくりしていってね」


「うん、分かってるよ。それじゃ、お邪魔します」


 久藤家に足を踏み入れることになった私は、花音ちゃんにリビングへ案内された。