若者にとっての時間と、年老いた者の時間の流れは時として倍近くの速さがあるように錯覚される。

 実際は皆平等に与えられている時間に差はないのだが、人の体とは不思議なもので、楽しい時間、つまりは物事に夢中になっている間は時間の経過を忘れてしまうものらしい。

 春田希望も、そんな若者の一人だった。

 つい先日まで仲の良い友人たちと避暑地へ遊びに行っていたというのに、あれからもう一週間が過ぎている。

 旅行から帰ってきたその日から、私は連絡先を交換したばかりの花音ちゃんとメールのやり取りをするようになった。

同じ人を好きになっている手前、彼女と良好な関係が築けるのか不安だったが、それは杞憂に終わった。

 花音ちゃんは、こちらが心配になるほど、私に協力的だったのだ。


「希望さん、家に遊びに来てくださいよ。私が希望さんと仲良くなったのを知れば、お兄ちゃんも喜びますし」


「ありがとう、せっかくだし行きたいな」


 そんなやりとりをしたのが三日前。

 そして私は今現在、久藤家の玄関に立っている。

 あくまで今日の私は花音ちゃんの友達で、彼女に招かれたということになっている。

 高級住宅街の隅にあった久藤家は、全体が赤いレンガ調でまとめられていて、庭には青々とした艶の良い緑が茂っている。

 花壇には背の高い向日葵も咲いていた。

 季節の花を植えているのであれば、兄妹の母親であるミヒロさんのセンスの良さが伺える。

 芸能人の家だから、もしかしたらお手伝いさんがいるのかもしれないけれど。

 私は夏だというのに冷たい汗で震える指先をインターフォンに押しつけた。

 玄関、と言っても実際の家との距離はまだ少しある。正確には立派な門の前に立っている私。

 インターフォンは私が押してからすぐに反応があり、機械越しに花音ちゃんの声が聞こえた。