「まぁ、なんとなく、ですけどね。それにしても、お兄ちゃんは本当にモテますねぇ……アナタみたいな学校一のマドンナさんに、実の妹にも好かれるだなんて。妹としては誇らしいですけど、女としては複雑です」
「はは……花音ちゃんは何でもお見通しなのね。すごい洞察力」
「誰にも言いませんよ。私は、希望さんを応援してるんですから」
「……どうして? 花音ちゃんにとって、私は恋敵じゃない。それなのに、私を応援だなんて、おかしいわ」
「言ったじゃないですか、私はお兄ちゃんと結ばれる訳にはいかないって。だったら、少しでも見知った人に盗られるほうがいい」
唇を噛みながら言葉を絞り出す様に、それが彼女の本心ではないことを知る。
花音ちゃんにとって、苦渋の選択なのだろうということは、容易に想像がついた。
「希望さんは、お兄ちゃんにとって、特別みたいですし」
「私が?」
「はい。希望さんへの態度は、いつもお兄ちゃんが女の子たちに取るものと全く違いますから。なんていうか……素を出せてるんだな、て感じですかね」
何も知らない私なら、両手放しで喜べるのだが、素直に嬉しい、とは思えなかった。
だってそれは、私が特別な女の子だからではなく、彼にとっては自分の秘密をバラされたくない相手だから。
私が、彼の「共犯者」だから。
「ありがとう。花音ちゃん」
「いえ、お兄ちゃんのこと、これからは私に聞いてくださいね! 後で連絡先を教えて下さい」
「うん、分かった」
自らの行いに罪悪感を抱きながら、私は首を縦に振った。