私は何も言わずに事の流れを見守っていた。


 どうして会話に交じらないのか。


 悠希との別れ話の時もそうだったように、どうやら私は感情が昂ぶると思ってもみないことを口走ってしまう時がある。

 年下の、ましてや想い人の大切な妹である花音ちゃんを傷つけることがあっては大変だ。


「まあ、そう簡単に好きな人も作れそうにないよね、花音ちゃんの場合は。なにせ後ろには妹溺愛のお兄ちゃんがいるし」


「実は、その……」


「なに?」







「お兄ちゃんなんです……私の好きな人」


 時が止まる、とは、こういう時に使う表現なのだろう。

 文字通り止まった時は、心音一つほどの本当に短い時間だったが、それ以上にその場にいた全員の心を揺らした。