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 初恋とは、例えるなら線香花火のようだ。火薬に火が灯る瞬間はさながら恋が芽吹いたと同義であり、そこから少しずつ侵食は始まる。

 チリチリと火薬は独特の臭いを辺りに漂わせながら燻り、黒ずんだ燃えカスだけを残して火の勢いを更に強める。

 そうして自分の心に巣食った未確認の想いが確信に変わる時、恋心は夜の闇をほんの一瞬だけ美しく照らす火花となって散る。

 未だ叶わぬ想いのように赤く熱を持つ火球をその中心に作り上げながら。

 燻り、肥大化してしまった想いのように。



 初恋は実らないという俗説がある。その要因は様々にあるのだが、どうにも人は、自分自身のとった行動に納得のいく理由を付けたがる。

 理屈だけでは生きていくことのできない私たちが、長年にわたって作り上げた心の守り方が、そういった俗説なのだろう。



 

 それはしょうがないことなのだ。



 

 そう自分を甘やかす言葉がなければ、失恋の悲しみに堪えることは難しいだろうから。



 

「あ、火の球……落ちちゃった」



 

 浜辺に打ちつける波の音を背景に、私は白い砂に埋もれてしまった火球の行方をジッと見つめた。